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こうのとり伝説
昔々、鴻巣の宮地(みやじ)に小字(こあざ)本宮(もとみや)というところがあり、
そこに小さな祠(ほこら)が祀られていた。
そのそばに天をも突かんばかりに繁った一本の大きな樹が立っていた。
毎日のお供えを少しでも怠ると必ず祟りがあって、
村人たちは苦しい生活の中からたくさんのお供えを欠かさなかった。
そして村人たちはこれを”樹の神”と呼んで畏れるようになった。
あるとき隣村の男によって祠が汚される事件が起こった。
樹の神の祟りか、それから村を猛烈な日照りが襲った。
そんな日照りの中、どこからか一羽のコウノトリが飛んできて
”樹の神”の樹のてっぺんに巣を作り卵を生んだ。
ところがそこに一匹の大蛇が現れて、卵を飲み込もうと巣に迫った。
怒ったコウノトリは大蛇と木の上で渡り合った。
大蛇の頭をくちばしで突き刺すと大蛇は悲鳴を上げて不思議な光を放ちながら消えてしまった。
こうして大蛇を退治したコウノトリは無事に卵を守った。
するとそれまでの日照りが嘘のように突然雨が降り出した。
それ以来、樹の神が村人たちに祟りを起こすことがなくなった。
村人たちはコウノトリに感謝して新しい祠を祀り、ここを鴻の宮(現在の鴻神社)と呼ぶようになり、地名も鴻巣と呼ばれるようになった。
なお、新編武蔵風土記稿(文化・文政期=1804年から1829年、化政文化の時期)に編まれた武蔵国の地誌)には、次の記述があります。
「字本宮の地に大樹が一本茂っており、土地の人々はこれを樹の神として崇め、供え物をして祭っていた。もしお祭りを疎かにすると祟りがあり、人々に災いもたらすというのである。あるとき一羽の鵠が巣をかけて卵を産み付けた。この卵をねらってどこからともなく現れた大蛇が襲い掛ろうとしたが、鵠は嘴をもってつつき殺してしまったという。それ以来、樹神は人々に危害を与えることがなくなったという。このような出来事があってから、ここに祀られた社を鴻ノ宮というようになり、地名も鴻巣と呼ばれるようになった」